
NYでの展示会中に、古くからの取引先のK氏と話になった。
彼は若い時分から洋服業界一辺倒で、それこそ何もかもが仕事第一でやって来た人だ。とは言っても結婚はしているし、子供たちもいて、今はニューハンプシャーの大学街に暮らしている。
ずっとNYで暮らしていたのが、ある日突然思いついたらしい。何故こんなに怒ってるいるのかと。ま、今で言うストレスなんだろうけど、その頃はわからなかったようだ。聞くと、道を歩いていて肩が当たっただけで、悪態をついて、ケンカになっていたり、マジにそのままでいたら誰かとモメて、ビルの窓から放り出していたかもしれないと言っていた。いろんな事があり、そして奥さんからの一言、「今まではずっと二人で頑張ってきたけれど、それは貴方のやり方できたわ。今度は、私のやり方で二人で頑張りましょう。」これが効いたらしい。ニューハンプシャーに引っ越し、お店を始め、家の庭で野菜を育てはじめた。今じゃあ、その庭がハーフエイカーにもなって、自分たちが食べる野菜は全てそこからの収穫で賄えるようになり、余剰分は近くのシェルターに寄付するのがルーティーンにまでなっている。まるで自家用ホールフーズ状態だ。確か彼らは、どっか南の島に家も買って、そこの改修に毎夏忙しいと聞いた。いやあ、なんて人生だろう。彼は自分の奥さんがいつも彼の身になって一生懸命だったことを良く理解している。
だから、今度は彼の奥さんのために自分は一生懸命になりたいと思ったと言った。もう7年くらいの付き合いだけど、彼の奥さんにはまだ会った事がない。きっと素晴らしい人に違いない。
学生時代に知り合った二人は、その後も長く付き合ったあとに、K氏が奥さんにプロポーズ。そして奥さんの実家へ、両親に会いに行く事になった。その頃K氏はもろヒッピー。腰までの髪をのばしていて、身長は1メートル90センチの巨体。酷く印象は悪かったに違いない。奥さんはその時、両親からインディアンを連れてきたのかと言われたらしい。二人の結婚を認めてもらうには、かなり困難に見えたようだ。しかし、結局は両親も皆大賛成。K氏は、奥さんの両親には大人気になってしまった。その秘訣は何か。それは、両親の出した料理を片っ端から食いまくった事。完全に食いまくった。
それが、一番だったよと。
男は食いっぷりが良いのが一番なんだよと笑っていた。
ふーん、そんなものなんだあ?ちょっと考えてしまった。昔、自分も人の3倍くらい食ってもまだ足りない時期があった。会社からボーナスが出たときは、昼飯は、そば屋に行って、カツ丼に、カレーライスに、ざるそばが決まりだったし。とんかつ屋ではご飯、みそ汁、おかわり自由をねらっては、キャベツとソースでご飯を2杯、カツで3杯と、5杯たべてしまって、出入り禁止になったこともある。あの時に、この力を活かせる事があると知っていたら、人生は変わっていたかも知れない。さすがにもう歳でそんな事はできないし、それをK氏のように使えるシチュエーションもない。しかし、今思い出したのは、友人のP社のT氏。ほぼ同じ歳の彼はまだまだがっつり食える。いや、若い時の自分以上に食える。この前、清水さんと一緒にキャッツキルに釣りに行った時もめちゃくちゃ食っていた。
食い過ぎて、帰りには体調を崩してヤバかったくらい。
そして、もう一人は、フードファイター、小林タケル氏。
NYでは有名な彼は、去年問題になったホッドドック大会と同時に自力で別会場で挑戦!圧倒的な非公式勝利を飾っていた。
だからどうだって言われると、ま、別にどうでもない事なんですが、とにかく最近きになったのは、これと、なでしこジャパン。多分、皆そうだったろうし、そのことを書く人は多いでしょうが、やっぱりご多分にもれず、僕らも大いに盛り上がり、そして感動しました。素晴らしい試合でした。写真は、その日の朝に出かけて行った海です。NJへ行って、全く波がなくて、結局対岸のロングビーチまで、ドライブもくたびれました。
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。