3.11、イタリアから来た取引先とカフェで打ち合わせ中に揺れがきた。「こんなとき日本ではどうするの?」「地震はしょっちゅうだから、揺れが大きくなったら机の下に潜れっていうのが刷り込まれてるね」。冷静に話してたのもつかの間、ドアが軋むのを見て立ち上がり、get out of here!と叫んでた。そのまま金も払わず3人と飛び出して、すぐ近くの公園に走った。店へ連絡しすぐにクローズの指示を入れ、お客様を同じ公園に誘導。
この後から本当に長かった。
毎日深夜までニュースに釘付けの消耗戦。暴力的な津波の映像とともに、メルトダウンやタテヤなどの言葉が頭に詰め込まれる。機動力を意識した服装、玄関に置いたままのipod、放置しがちな部屋の植物。頭に余裕がなくなっているのが手に取るように分かった。東北の被害の大きさ、被災地の方々の無念さは計り知れない。鎮魂、そして残された人達の生活。NYで9.11も経験しているが、状況がまた違う。自然相手なのと、放射能というやっかいなヤツがさらにものごとを複雑にする。混沌としてどっぷり沈んでる街を見て、自分も沈んでいた。
地震後オフィスに戻ってみると、壁にがっつりと亀裂が。オフィスはあきらめて店の裏にパソコンを持ち込み、マンガみたいな臨時オフィスでしばらく仕事をしてた。

あのとき誰にも正確な判断は出来なかったと思う。なぜなら正確な情報がなかったから。それは今もあまり変わらないのかもしれない。結局は己の信念に沿って動くしかない。自分の中の優先順位を確認しなおす日々で、数多くの気付きを得た。日常を取り戻したい、あの時の願いはただそのひとつ。あんなに日常を欲したことはない。止まらずにやっていこうという思いが、ふつふつと強くなっていった。正しいかどうかではなく、ここで自分達がやれることをやろうという結論だったと思う。各店ではボランディアセールを開催し、数多くのお客様にご協力頂いた。展示会も東京で開催し、全国からたくさんのバイヤーの方々にお越し頂いた。心から感謝しています。
「NEEDLES」の2012年春夏コレクションには、"RE-BUILT TO LAST"というタイトルが添えられている。この"RE-BUILD"という言葉は、"再建する/作り直す"という意味と同時に、希望などを"取り戻す"という意味でも使われる。そこには、復興へ向けたデザイナーの意思が込められている。

店頭では、「ENGINEERED GARMENTS」春夏コレクションが続々と入荷し、年末最終日にDRAKEの限定ダウンジャケットが緊急投入されるなど、年の瀬も賑やか。そして1月2日からは、いよいよ「WINTER SALE!」。2012年はNEPENTHESにとって25周年を迎える大事な年。秋にはビッグプロジェクトも予定しています。そろそろ真剣に準備しないと。
どうか良い年になりますように。黙祷。