「撮影の時、スタッフで動いてるのがカメラマン、独りで動いてるのがフォトグラファー」。倉田精二さんの話しを聞いて、なるほどと思った。当ホームページにてコラムを連載中の石川祐樹さんに誘われ「倉田精二 × 瀬戸正人 トークイベント」に出掛けたときの話しだ。双方とも木村伊兵衛賞を受賞されているフォトグラファー。瀬戸さんは石川さんの通っている新宿御苑の "夜の写真学校" の先生であり今回は聞き手兼進行役。倉田さんの代表作である「FLASH UP」という写真集の話しを中心に、予定より大幅に時間オーバーして3時間弱くらいのロングトークだった。

「FLASH UP」は暴走族、ヤクザ、ゲイ、夜の女たちなど、アンダーグランドに生きる人達を、70年代後半に池袋周辺で速写したスナップ写真がまとめられたもので、今でも非常に評価の高い写真集。写真は隠し撮りとかではなく、全てがストロボをばっちり焚いて撮られており、アウトロー相手によくこんな写真が撮れたなというのが皆の共通の驚き。それを本人も分かってらっしゃり、裏話をたくさん話してくれた。
表紙の刀
は後から見たら偶然光ってたとか、カラーフィルム持ってこいと怒られたとか、クラブから出てくる親分をお辞儀して出迎えたように写っている若い男は、実はそのとき落とした100円玉を拾おうとしてただけだとか、フラッシュを使ったのはただ露出が分からなかったからだとか、数々の逸話が聞けて満足。
いきなりの速写とはいえ、「きちんと (被写体) とコミュニケートしたいという真面目さがある」、「スナップは怖いものがある、空気を読むことが大切」と言っていたのが印象的。「"やらせ" をやったら相手との関係性としてつきまとわれるから絶対やらない、お金を払ったり取り決めをしたこともしなかった」そうだ。家の住所や時には本名も相手に教えたことは無く、送ると言われても家とは違う場所で降ろしてもらって、そこからタクシーに乗ったりしていたらしい。
瀬戸さんは「以前、芥川賞選考委員の村上龍さんが、受賞作の水準を故中上健次の『岬』に定めていたと言っていたが、写真の木村伊兵衛賞の水準は何かと考えた時に、『FLASH UP』がそれにあたると思う」と言っていた。読んだ本を再読することが殆どないのだけど、また「岬」を読みたくなった。
路上でのスナップ写真は、一対一の勝負。心地よいバイブスのセッションが出来るときもあれば、最悪のトラブルになる可能性もある。そのスリルが癖になるのかもしれない。当ホームページのコンテンツ "LIFESTYLE" では、フォトグラファー山田陽くんによる路上ポートレイト集
「ONE STEP AHEAD」がアップされた。

写真は全て、街を歩く見知らぬ人に声をかけ、その場で撮られたもの。誰に対してもニュートラルな陽くんだからこそ撮れる、味わいのある作品だと思う。着こなしという点からも、誰ひとり洋服に着られてるような人がいなく、好きな物を好きに着てる感じがとても良い。アレサ・フランクリンの歌声もぴったり。普段着のNY、ぜひお楽しみ下さい。
そして、雑誌「POPEYE」でもスナップ特集号が全国書店で好評発売中。大器さんを始め、NEPENTHESのスタッフも登場しています。こちらもお見逃し無く。
さらに、春夏第一弾となる人気コンテンツ "REMIX" には岡部文彦が登場します。もうすぐアップとなりますので、こちらもご期待下さい。