山梨県鰍沢にあったというアウトドアインポートショップの話は、山梨県出身の清水さんから聞いていた。海外のアウトドアウェアがまだ日本に輸入されておらず、東京でさえ手に入れることができなかった時代に、アメリカ製やカナダ製の当時誰もが憧れたアイテムを独自のルートで揃え、鰍沢の地で扱っていたらしい。清水さんの同級生であり今も山梨に住む伊藤博さんからも、その店の話を聞いたことがあった。当時の様子を聞くにつけ、ますます幻想は膨らんだのだけど残念ながらそのお店は既に無い。都立大学駅近くにあったという電器店がやっていたインポートウェアショップと並んで、今となっては妄想のなかでその存在感は増すばかり。
芦沢一洋さん(1938−1996)の名前を知ったのは、その鰍沢の店がきっかけだった。釣具店としてその店を始めたのが芦沢さんで、その後ご兄弟がアウトドアショップとして運営されていたらしい。芦沢一洋さんは日本に初めてバックパッキング文化を紹介し、70年代のアウトドアブームを牽引したアウトドアライター。数々のアウトドア名著を残されていて、コリン・フレッチャーの「遊歩大全」も翻訳されている。
「アウトドア・ライフは、いわゆる "スポーツ"ではない。人と人とが技を競い合う世界ではないのだ。スポーツの用具を使い、肉体の鍛錬を自己に課する場面があったとしても、求めるところは争いを知らない自己洞察の世界。シンパシー、共生を希求する心の世界なのだ。」
「コンクリートで覆われ、排気ガスで汚染された空気の中で暮らしながら、残された小自然に気を配り心の中に旅心を掻きたて、わずかな時を見つけては都心や郊外の自然景観を求め歩く。それもまた立派なアウトドア・ライフだと僕は思いたい。」
「本当の自然、それはなるべく手の届かないところにあるのがいい。それに憧れ、時折り訪問者となることを夢見ながら、僕は都心とその周辺に暮らす。」
(講談社現代新書『アーバン・アウトドア・ライフ』芦沢一洋 より抜粋)
「人の手が作り出す、美しく、工夫に満ちた道具たち。強い愛着心をもてる "もの"。それだけを選び出し、使いこなして行きたい。」
(森林書房『アウトドア・ものローグ』芦沢一洋 より抜粋)
柔らかな文体で語られるその言葉は、今もバリバリ現役で心に響く。時の流れで色褪せること無く、読めば読むほど、目から鱗がパラパラと落ちていく。「SOUTH2 WEST8」のコンセプトやアウトドア感と共鳴するところも多くて、何か勝手に後ろ盾を得たような気分。絶版になっているものが多いのが非常に残念。「SOUTH2 WEST8」やNEPENTHES TOKYOでは芦沢一洋さんの古書を少し扱っているので、興味のある人は是非。

秋刀魚の季節になって、楽しみにしてた秋場所が始まった。
ガチになったとたん相撲が凄く面白い。休みの日に風呂屋のTVで観るのが至福のとき。20日にはUFCの日本大会。こちらも楽しみ。やっぱりリアルファイトは面白い。
リアルで面白いと言えば、夢中になってるのがディスカバリーチャンネルが放送しているアラスカのカニ漁を追ったドキュメンタリー
「ベーリング海の一攫千金」。最高質の映像、最恐の現場、役者を超えたキャラクターのある登場人物。アメリカのドキュメンタリーはここまで来たかと、もう驚きの連続。しかし、新聞のラテ欄で偶然見つけたこの番組を観ながら、「絶対好きだから観た方がいいですっ」て随分前に誰かが自分にこの番組の話をしてくれたなという気がしてならない。。いや、絶対してた。
しかし、誰だったかいつだったか全然思い出せない。。自分の記憶力の無さにも、驚きの連続なのだった。
好評発売中!
このコラムから初の書籍が誕生しました。
ある格闘家の戦いの記録。
いまを残したいというただそれだけの、
でもとても切実な祈り。
日々の小さな幸せは、
実は奇跡の連続なのだと気づかせてくれる。
写真家・川内倫子
「3回手術すれば生きられます」。娘が誕生した翌日、聞かされたのはそんな言葉でした———。
格闘家として身体を酷使してきた父が、心臓疾患を持つ娘との日々を綴った人気ブログ「パパはね。。」を書籍化。軽やかな文体の中に見え隠れする、生と死の脆さ、命のたくましさ、母娘の強さが、著者自身の撮影による瑞々しい写真とともに心を打ちます。
木村伊兵衛写真賞受賞写真家、川内倫子氏も絶賛。