オフィスに戻ると、書家の神郡宇敬先生から素敵なプレゼントが届いていた。
そう、来年の干支は申だった。ネイビーに墨が渋い。さすが。お歳暮や年末年始の挨拶は良い。相手のことを人知れず考える。気持ちに余裕がないと楽しめない習慣。

京都に神郡先生を訪ねたのは、夏の暑い日。挨拶もそこそこに、すぐ目の前で墨を摩って見せてくれて久々に見る墨独特の重い質感が懐かしかった。真新しい紙にさらさらと文字が生まれる、その所作に見入っていると、「何か書いてみて下さい」と言われ、どきっとした。
人前で改まって文字を書くのは、試験のようで調子が出ない。筆を持つと背筋が伸びる。俺は何を書くのか、筆はこれでいいのか、どの位置に書くのか、頭になにもないままに時間が過ぎて、えーい、ままよ、と一気に漢字を書いた。


魚偏に鬼と書いて、イトウ。日本最大の鱒。釣りのことなんて考えようもなく暑い京都で、本当に無から出て来た。書いた文字を自分で見て、あぁやっぱりイトウ釣りたいんだなあと再認識して驚いた。久しぶりの習字は良いものだった。柔らかな毛筆が紙を滑り、筆に手が動かされるように文字が生まれる不思議な感覚。またすぐ書きたいと思えるくらい、とても気持ちがよかった。
NEPENTHES OSAKAから同行した圓若も一筆。「創」という良い漢字。数秒して気付いた。圓若の名前は、「創」と書いて、ハジメ。名前を書いたのだった。普段割と遠慮しがちな彼が、それを書いたのが何だか良かった。確かに、何もお題がないと、名前を書いちゃうのもよく分かる。きっと良い体験だったに違いない。

あっというまに年末になるのは分かってて、毎年注意していながらも結局はそう感じてしまう不思議。気付けばクリスマスは今週金曜日。とはいえ、自分にとって金曜夜は青山で
柔術クラスの指導の日。クリスマスに何の予定もないハードコアな男たちと、マットの上で戯れよう。キリスト教徒ではないのでイエス様も許してくれるだろう。
店頭では来春の商品の展開がスタート。「ENGINEERED GARMENTS」「NEEDLES 」「SOUTH2 WEST8」、メインの3ブランドを筆頭に、来季も刺激的なラインナップを準備中。もうすぐオフィシャルサイトにてイメージ画像を公開します。是非ご刮目下さい。

好評発売中!
このコラムから初の書籍が誕生しました。
ある格闘家の戦いの記録。
いまを残したいというただそれだけの、
でもとても切実な祈り。
日々の小さな幸せは、
実は奇跡の連続なのだと気づかせてくれる。
写真家・川内倫子
「3回手術すれば生きられます」。娘が誕生した翌日、聞かされたのはそんな言葉でした———。
格闘家として身体を酷使してきた父が、心臓疾患を持つ娘との日々を綴った人気ブログ「パパはね。。」を書籍化。軽やかな文体の中に見え隠れする、生と死の脆さ、命のたくましさ、母娘の強さが、著者自身の撮影による瑞々しい写真とともに心を打ちます。
木村伊兵衛写真賞受賞写真家、川内倫子氏も絶賛。