「左耳が聴こえない」と言うと、皆一様に驚く。本人にとってはそれ程のことではない。左耳の聴力自体は0だけど、右耳は良いからそれで補っている。普段の生活で唯一気を遣うのが、食事の時の席順。話しづらいから、基本的に相手の左側にしか座らない。大人数なら机の左端。なので誕生日だろうと真ん中に座ったことはない。必然的に右を向いてばかりいるから、左に顔を向けるのに慣れてなく関節も硬い。
宜しくないのは狭い道路で、左側の物音が聞こえてないから、車が近づいてるのに気づけない。いきなり出てきた車にヒヤッとすることもしばしばで、いつか左側をバコンと持ってかれるんじゃないかと思ってる。音も好きだから良いイヤホンとかを使ったりしてみるけど、結局ステレオでは聞こえない。それでもやっぱり良いイヤホンは全然違う。個人的な好みはゼンハイザー。
耳を触った時にしゃかしゃかざわざわする音、あれが片方はしないってのは未だに不思議な感覚。そして、右耳を下にして横になると、完全防音になってすごく静かに寝れる。反面、目覚まし時計の音は聞こえないから注意が必要。
急に聴こえなくなったのは小学校低学年の頃で、原因は不明。大好きな秋川渓谷に川遊びに行った翌日校庭を走り回ってたら急に耳鳴りがした。家に帰って病院に連れて行かれ、そのまま大学病院へ移動。以来、何年かのあいだ、西洋医学はもちろん漢方やら鍼やら色々やられたけど、治らないものは仕方ない。子供の頃は、治ることより病院に行くのが嫌で、親が治療を諦めた時には少しホッとした。片方が聴こえない分、目や他の感覚でカバーしてるのだからエスパーみたいなものだ、と本気で考えていた。今考えると、子供ながらの自己防衛本能みたいなものだったんだろう。
そんなこんなで40年近く、機能しない耳と付き合っていることになる。
機能しないのだから、飾りみたいなもの。道具も機能を失うと途端に置物になる。機能しないことで芸術になる道具もあったりする。逆に、元々何の用途もない物に、機能を付けてみたのがこちら。



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