雑誌発売の打ち上げを兼ねて、太田和彦さんと食事。店は代々木上原の「笹吟」。時間は開店と同時の5時。編集担当の田口悟史がどうしても来れなくなり、カメラマンの鈴木新と三人。生ビールから初めて、刺身の盛り合わせを注文。秋の始まりらしく、ひやおろしの酒に変え、穴子の酒盗焼きと揚げ銀杏を追加。話に夢中になって、だいぶ時間が経っていることに気付いた時、太田さんが一言、「注文が細いのはお店によくないから何か頼もう」。このあたりの考え方にとても共感してしまう。
太田さんにしてみれば、縁もゆかりもないファッション関係のしかも聞いたこともない会社からいきなりロングインタビューの話が来た訳で、頭の中は?マークでいっぱい。改めてNEPENTHESがどんな価値観を持っていて、太田さんの何にシンパシーを感じているのかに言葉を尽くした。本当によくぞ受けて頂いた。
原稿で一番気にしたのは一人称。「私」なのか「俺」なのか、「僕」なのか、実際のインタビューでの一人称と原稿のそれが同じであるべきだとは思わない。太田さんも同じ考えで嬉しかった。太田さんの場合、原稿のなかでは「私」か「おいら」で、「僕」は絶対にないそうだ。実際に接しさせてもらうと、そのニュアンスが実によくわかる。原稿をチェックする際、何よりも一番注意するのは、一人称や語尾だとおっしゃっていた。
そんな話から、自分が一番好きな太田さんの作品
「黄金座の物語」の話になった。「BOOK」データベースではこんな風に解説されている「役所勤めの私が迷い込んだ町には、週に一回、古い日本映画を上映する映画館があった。スクリーンの中には美しい日本があり、映画のあと立ち寄る居酒屋にはまぶしい人たちがいた。この町では何もかもが懐かしくてあたたかい」。連載小説を元にしており、各章に実在する映画のタイトルが付けられている。そのストーリー紹介が見事で、それだけでまるで映画を観たかのような気分。名画へのオマージュが所々に散りばめられ、太田さんの日本映画愛が伝わってくる。読んでいるだけで癒されるこの小説が何しろ好きで、特権を生かして企画の生い立ちから装丁にいたるまで、物語にまつわる様々な秘話を伺った。

その「黄金座の物語」は
「居酒屋吟月の物語」と改題されて、日経文芸文庫で文庫化されている。是非読んでみてほしい。物語のなかの街が東京のどこかにありやしないか、読んだ誰もがそんな気分になるはず。ちなみに、この本の主人公「私」は物語のなかで一度も自分の名を語らない。それがいいのだ。それでいいのだ。
新が撮った写真もご本人にとても気に入ってもらえて、プロフィール写真として使いたいと言ってくれたのも嬉しかった。もちろんお互い後から知ったのだけど、新は自分と同じ中学高校大学を卒業してる直系の後輩。後輩が褒められるのを見るのは、この上ない喜び。店を出ると夜はすっかり秋の空気。マイアイドル忌野清志郎さんとの思い出話も聞けて大満足。良い夜、酔い夜だった。

さて、HPでは
REMIXがアップ。
ヘッズなら百発百中知ってる南川崎レペゼンのドープなヒップホップクルー aka BAD HOPを、フロムNYのアキラヤマダがサンプリング。彼らのホームで行われたフリースタイルフレイヴァなプレミアムストーリー。DON’T MISS IT! ピース。
好評発売中!
このコラムから初の書籍が誕生しました。
ある格闘家の戦いの記録。
いまを残したいというただそれだけの、
でもとても切実な祈り。
日々の小さな幸せは、
実は奇跡の連続なのだと気づかせてくれる。
写真家・川内倫子
「3回手術すれば生きられます」。娘が誕生した翌日、聞かされたのはそんな言葉でした———。
格闘家として身体を酷使してきた父が、心臓疾患を持つ娘との日々を綴った人気ブログ「パパはね。。」を書籍化。軽やかな文体の中に見え隠れする、生と死の脆さ、命のたくましさ、母娘の強さが、著者自身の撮影による瑞々しい写真とともに心を打ちます。
木村伊兵衛写真賞受賞写真家、川内倫子氏も絶賛。