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ハソーンを始めたきっかけ
- 長谷川 ( 以下H ):いつ頃から仕入れ始めたんですか?
- 清水 ( 以下S ):15年くらい前かなぁ。この「ホワイツ」もね。アメリカのショットショー(SHOOTING HUNTING OUTDOOR TRADE SHOW)っていうハンティングやアウトドアの見本市がテキサスであって、27~28年くらい前によく行っていたんだよね。その時に「ホワイツ」は見ていたんだけど、元々超本格的なパックブーツとかロガーブーツのカスタムメイドをやってるところだから、なんかちょっと凄すぎるかなと思ってたんだ。帰ってきてからカタログを見ても、やっぱりいいなーって思うんだけど、現実的に考えると基本がカスタムメイドだから値段が高すぎるし、見た目も凄すぎてそのまんまじゃ街で履き難いし、店で売るのは難しいな、なんて思ってたんだよね。
- H:そうなんですね。仕入れはじめたのは、知ってからだいぶ経ってからだったんですか?
- S:そうだね。独立してネペンテスを始めて、最高級のワークブーツを店に置きたいなって思ったときに、この「ホワイツ」を思い出して、とりあえず本社へ行ってみようってことになったんだよね。
- H:場所はどこなんですか?
- S:ワシントン州の東側のスポケーンってところ。アメリカでは北東部が本格的なロガーブーツの産地で「ウェスコ」や「ニックス」とか、カナダの「ヴァイバーグ」なども知られていると思うけど、その中でも「ホワイツ」が最高峰だったんだよね。靴をやるときはいつも現地に行って、まず生産の工程を見せてもらうんだけど「ホワイツ」はそれまで見たことのない独特のウェルトで、

- もちろん防水性と強度のためなんだけど、すごく手が込んで独特な作りだったんだよね。でも、本格的なロガーブーツはソールにものすごい厚みがあるラグソールでしかもヒールも高くてね。中には厚いレザーソールにスパイクっていう、ヤバイくらいの1インチの釘みたいなのが付いているのもあったり、カッコイイんだけど普通に履くにはどう考えても辛いなって思ったんだよね。色々な説明を聞いて工程を直に見せてもらいながら、どう別注の話を持ってこうかなって思ってたんだよね。プライドのある会社だっていうのがわかったから。それで、その時貰ったカタログを眺めていたら、この「ハソーン」ってブランドが載ってて、今ネペンテスがやっているものとは違うんだけど、オックスフォード型のブーツが載ってたんだよね。同じカタログに今うちがやっているオックスフォード型の原型になった8~10インチくらいのブーツも載ってたんだ。そこで思いついて、これの短いのを作ってくれって言ったら、意外にもあっさりとやってみようと面白がってくれたんだよね。考えれてみれば、ここはカスタム屋だから可能な注文はなんでも受けるはずなんだよね。
- H:へー。
- S:で、作ってくれたんだけど、実はこれ、中途半端な長さで上がってるんだよね。普通オックスフォードって言ったら、もっとくるぶしの部分がえぐれてるものだからさ。
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- 徳郎 ( 以下T ):穴の数も普通4つとかが多いじゃない。
- S:そう、だから人によっては、ココがくるぶしに当たるんだよね。だからこの靴は、オックスフォード型としては中途半端な丈。でも、このくらいボリュームのある靴だと、これくらいの中途半端な丈じゃないと見た目のバランスが良くないんだよね(笑)。
- H:あー、変な感じなんですね。
- S:そうなんだよね。だから、向こうは最初からそれを考えてやったのか。。
- T:いや、考えてないと思いますよ(笑)!
- S:そうだよな(笑)。
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これがダブルステッチ。
- T:俺が思うに、これがこう決まってるから(ヒール部分を指して)、最短でこの高さにするしかなかったんじゃないかな(笑)。曲がる部分がこうあるから。。
- H:そうですね。
- S:その頃は「ラッセルモカシン」が値段的には一番高かったしね。最初は売れるか半信半疑って感じだったんだけど、段々売れるようになってきてね。それからはずーっと売れている。
- H:長いですねー。
- S:そうだね。うちの別注のこの形が、今では色々なところでも出始めてるみたいなんだけど、ダブルステッチなのはうちだけ。NEPENTHESってスタンプも最初から押してくれてて、それが押されているものは全てダブルステッチであがっているからすぐ分かるよ。
- H:へー。
- S:シングルステッチとダブルステッチだと見た目が全然違うから、ダブルが欲しいって言ってくれるお客さんは多いよ。
- H:「ラッセルモカシン」もダブルバンプとかトリプルバンプとか、コダワリが色々ありますよね。
- S:そうね。あれも「ラッセルモカシン」で作るならダブルバンプ仕様にしたいよね。シングルだと見た目が少し華奢だし、まっトリプルまでは無くてもいいかもしれないけど。
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- H:あれはどこなんですか?
- S:ウィスコンシンだね。
- H:住所になんとかベルリンとか書いてありますよね。
- S:ベルリンね。
- H:ドイツ系なんですか?
- S:そうだね、ウィスコンシンはドイツ系が多いところだからね。それと「チーズが多くて道路にいっぱい転がってるから踏まないように気をつけろ」ってジョークを、ロックマウント(ウェスタンシャツメーカー)のスティーブが言っていたね。いつも自分で言って、自分で笑ってたよ(笑)。ま、スティーブ知らないと面白くない話しだけど(笑)。
- H:(笑)そうなんですね。
- S:「ホワイツ」のあるスポケーンってとこには、「ニックス」とかもあるよね。最近「ニックス」は日本にも入り始めたみたいだけど、「ニックス」は「ホワイツ」にいた職人が始めたんだよね。初めてスポーケンに行ったときに両方共工場も見てきたよ。「ニックス」はサンプルも取ったけど、やっぱり「ホワイツ」の方が味があって好きだったから、「ホワイツ」の方だけやったんだけどね。
- H:「ホワイツ」はどれくらいの規模の会社なんですか?
- S:職人だけで言うと、その当時はマックスで30人くらいじゃないかな。今は分からないけど。
- H:「レッドウィング」はどうなんですか?
- S:一時期だけ中国生産とかも見かけたけど、すぐにアメリカ製に戻ったよね。まだミネソタで作ってるのかなぁ、ちょっと分からないね。「チペワ」ってあるでしょ?あれは元々ウィスコンシンのチペワってとこでやってたんだけど、「ジャスティン」に買収されて、マシーンごとテキサスに移してやってるそうだね。今はどこか分からないけど。
- H:じゃあ、ある意味、いまや「チペワ」の方が(頑にアメリカ製な分)格は上ですか?
- S:それは人それぞれだから何とも言えないな。どちらも良いブランドだと思うけど、知名度は今も断然「レッドウィング」の方があるよね。あの#875っていうアイリッシュセッターの形は、やっぱりなんか魅力があるんだろうな。独特なあの感じは他のワークブーツにはないもんね。
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「ホワイツ」社の傘下となった「ハソーン」社。
- H:「ハソーン」についてですけど、「ホワイツ」っていう会社が別ブランドで「ハソーン」をやっているって事ですよね。
- S:確か、元々は「ホワイツ」が「ハソーン」を吸収したんだよね。だから「ホワイツ」が最高峰で、ワンランク下のブランドが「ハソーン」くらいのイメージだったんだけど、今はもうあんまり変わらないよね。あと、「バッファロー」ってのも「ホワイツ」が吸収してやってたけど、あれは最近見ないね。今はもうないのかな?凄くいいブーツで、うちでやったのはスモークジャンパーだったかな。もしかしたら今もサウス2ウエスト8(札幌)に2~3足残ってるんじゃないかな。もしあれば貴重なものだけどね。
- H:「ホワイツ」と「ハソーン」は、あんまり見た目は変わんないですよね。
- S:見た目では分かりにくいかもしれないけど、「ホワイツ」ってレーベルで出してるものは、やっぱり素材も含めてトップクオリティーで、手作業の工程も物凄く多いんだよね。さっき話した「バッファロー」は同等の感じだったけどね。
- H:確かに重いですね、これ。(「ホワイツ」の靴を持って)
- S:ここのウエルトの感じが、「ホワイツ」と「ハソーン」は違うんだよな。
- H:あー確かに。
- S:ちょっと盛り上がってるんだよ、ホワイツのが。
- H:そうですねー。
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White's Poleclimber Oxford
- S:ストームウェルトって言われるもので、余計に手が加わってるんだな。で、ここの特徴は、シャンクが普通、スチールなんだけどさ、ここは実はレザーシャンクなんだよ。すっごく固い革で樫の木みたいな。
- H:へー。
- S:鉄は頑丈だけど、この加工した革が実際、馴染んできたら良いらしいんだよ。だからそこには拘っているんだよね。
- H:へー。折れたり曲がったりしないんですね。
- S:そう、簡単にくたばるような革じゃないんだけど、それでも酷使して長年履いてるとやっぱりヘタってくるから、だからロガー達が修理に来るんだけど、ここでね、始めて"リビルド"って言葉を聞いたんだよな。
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- H:"リビルド"ですか!?
- S:そう、修理するって意味で。普通、リペアとか言うんだけど、リビルドっていうのは、作り直すっていう意味なんだよな。
- T:BUILDINGのBUILD。再って意味のREに BUILDで、REBUID。一回壊れても、もう一回作っちゃうっていう意味。だからクッタクタのブーツの修理依頼が、工場に山のようにあるんだよ。そういうのを作り直すっていう意味。
- H:へー。リペアよりもっとなんていうか、作り直してしまうっていう意味ですか。
- S:そう、アッパーとかは時間をかけてその人の足に馴染んでるから、履いてる人が手離したくない部分はそのままにね。でも、リビルド出来るのは確か2回までって言ってたかな。まっ、その頃にはさすがにアッパーもダメになっちゃうんだろうけどね。
- H:古着屋さんで見るホワイツは漫画みたいに反り返ってたり、足形に変形してたり、馴染みすぎて凄いことになってますもんね。
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"リビルド" されたブーツ。この考え方が「リビルド バイ ニードルズ」の由来にもなった。
林業の人の靴
- S:カスタムメイドとかでやってたから、その人の足型を取ると、たまに不恰好になっちゃうのもあるんだろうね。今もカスタムする人は多いのかなぁ。どうなんだろうね。
- H:林業の人(ロガー)もカスタムまでしたら、結構な値段すると思うんですが。
- S:するんだけど、ある意味一番大事な仕事道具だからね。安くてすぐダメになるより、しっかりしたものをずっと履きたいんだろうね。
- H:ソールはビブラムに替えてありますが、それだけでだいぶ違うものになってますよね。僕は古着屋で見るあれと、これが同じブランドだと思ってませんでしたから。
- S:ハハハ。
- T:ここのカスタムのロガーブーツなんて、本物を見るとちょっとハイヒールみたいだからビックリするね(笑)。
- H:ハハハ。ところで、清水さんの好きなワークブーツってあるんですか?
- S:俺は「サンタローザ」って靴が好きだったなぁ。ウディ・アレンが履いてた薄茶のオックスフォード型ね。あとは「ジョージア・ジャイアント」っていうとこのレース・ツー・トゥ・ブーツっていう、つま先から編み上げになってるやつと、ペコス・ブーツね。ベージュのスウェードのアッパーで、白のコルクソールだった。両社ともちょっとマイナーっていうか
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1900年代の林業の作業員(ロガー)。足元はハソーンだった!?のかもしれない。
- 「チペワ」とか「レッドウィング」とかよりワンランク落ちるっていうイメージのブランドなんだけど、そういうブランドの方が味のある靴があって好きだったなぁ。
- H:靴はやっぱり重要ですか?
- S:そうだね。まぁ靴で決まってしまうところもあるからね。
- H:靴はどのくらい持ってるんですか?
- S:あんまり数えたことがないからわからないけど、どうなんだろう。まぁ、数百足くらいはあるのかなぁ。一時期「ビルケンシュトック」のボストンばっかり履いてた時は、そればっかり履いてたんだけど、それだけで50足くらいはあるんじゃないかな。履きだすとそればっかりになってしまうからね(笑)。
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