ファッションのコーディネートを考える際、悩まされるひとつの項目に”色と柄の合わせ方”がある。明確に決まっていることではないが、なんとなくNGに関しては知っているつもりになってはいないだろうか。しかし、本来ファッションというのは自由であり、自分のスタイルを第一に相手に知らせることのできる自分だけのキャンパスである。そのキャンパスにどの色を使ってどんな柄を描くか、遊び心を持って挑んで欲しい。このことを自らのクリエイションで体現している二人のトップクリエイター、ネペンテス代表の清水慶三氏とスタイリスト服部昌孝氏。両氏による対談企画が後に続くファッションページの撮影数日後に行われた。
NEPENTHES WEBサイトのファッションページ”REMIX”の服部氏が手がけた17年FWのビジュアルの中で、色と柄の合わせ方が特に印象強かったルック。
服部「元々僕はネペンテスファンです。スタイリストデビューする前からお店に行かせてもらっていました」。
清水「服部君には15年FWのREMIX(NEPENTHES WEBサイトファッションページ)をやってもらったのが最初ですかね。最近いない感じのスタイリストで面白いなって思ったんですよ。それがきっかけでニードルズのルックブックをやって欲しいという話をしたんです」。
服部「ニードルズのルックをやらせてもらって改めて思ったのは、このブランドはとにかく色と柄が強いってことですかね」。
清水「コーディネートの中のハズしみたいなアイテムがあるといいなと思っているんです。飛び道具というような感覚の服もあえて作っています」。
服部「それでも強さだけじゃなくてクラシックな要素があっての飛び道具って感じですよね。実はその感覚は僕の中にもある気がしていて、クラシックだったりテーラリングだったり、そういった要素を持ちつつハズす。今回のスタイリング(P040-043)でも個性が強いアイテムを合わせても、最終的にはまとまるように、そういった要素を入れたりしました」。
近い感覚を持ち合わせる両者が考える”色と柄の合わせ方”にルールは存在するのか。
清水「昔はVANを中心としたアイビーっていう特有のカルチャーが日本には存在していて、当時の雑誌が色と柄についてルールを作っていたんですよね。それからサイケやヒッピーが出てきて、全体的にルールは変わっていくんだけど、日本には根付いてしまったような感じですかね」。
服部「確かに根付いてますよね」。
清水「それが最近になってようやく無くなってきたかな。今は基本的にルールはないように感じます。あるとしたら世間のルールじゃなくて自分の中のルールですね。自分の中にベースになるものがあれば自由にできますから。そうすると個性も出てくるんですよ」。
服部「個性を出したうえでまとめると最終的に綺麗に仕上がりますからね。そういうちょっとしたテクニックは重要だと思っていて、このコーディネート(P041参照)もカモフラージュにアーガイルを合わせて下はチェッカーなんですけど、最終的にはまとめていくという感じで作りました」。
清水「どこかにしまる部分がないとまとまりませんよね。そういうところを意識すればあとは自由でいいんだと思います。そこからはいかに個性を出すかじゃないでしょうかね。着ていて楽しいほうがいいじゃないですか。自分も最近、趣味の釣りのときなんかは、カモフラージュにタイダイを合わせたりもするんですけど、どこかの部分でしめるっていうことをしています。自分なりのまとめ方をしているんですよね」。
服部「前回やらせて頂いたCOLORS(NEPENTHES WEBサイトファッションページ REMIX 2017FW)でも色と柄を盛り込んだような感じに仕上げたんですけど、しめる部分はしめました」。
清水「あれはすごい良かったなって。攻撃的な感じはするんですけど、すごいしっくりくる。ただ攻めているだけではないって感じましたよ」。
服部「その中で全身真っ赤なスタイリングがあるんですけど、ただ赤いだけじゃない。ワントーンコーディネートと柄をどうするべきなのか、ひとつのスタイリングに凝縮できた感じがして、すごい気持ちよかったんですよ」。
清水「あのコーディネートは僕も印象的でした。展示会の時に普段話をしないような人からも、あれはかっこよかったって言ってもらえたりしましたしね。ずっと無地だったりシンプルなスタイリングが続いていたけど、今は個性みたいな部分を皆欲しているのかもしれないですね。だけど、先ほども言いましたが、大切なのはしめるっていうところで、それが分かっている人はコーディネートも含めて、かっこいい人なのかなと思います」。
服部「強い色には重めの色を当てるとか、アイテム全体のシルエットでしめるっていうことをスタイリングの中ではやっていますね。今回のビジュアルでも意識しています」。
清水「シルエットは大事ですよね」。
服部「いくら柄に柄を合わせてもシルエットがしまっていればまとまって見えます。あとは、今日の清水さんも僕もそうなんですけど、足元を革靴でしめるっていうのは最近よくやるんですよ」。
清水「足元や首元は重要なポイントかもしれませんね」。
服部「僕は清水さんのジャージにヒールブーツを合わせるっていうのがすごく好きです」。
清水「ジャージなんかは普通サンダルとかスニーカーとかになっちゃうんだけど、あえてドレスシューズを合わせてみたりすると面白いんじゃないかって思います」。
服部「ス二ーカーはスニーカーでも、黒いリーボックのクラシックローみたいに、革靴に近いスニーカーでしめるのもいいかもしれませんね。自分が普段している格好の中で一点二点変えるだけで印象は変わってきますよね」。
清水「そういった小さなところから変わっていくと思いますよ」。
服部「なんでもそうだと思うんですけど、まずは自分で一度試してみるというのは大事なことじゃないでしょうか」。
清水「良いと思ったらなんでも一回は着てみる。それで違うなって思ったら変えればいいし、なるべく変えずに残してみることも大切ですね。サイズやシルエットも重要なので、同じアイテムでも色が違うだけでこっちのサイズのほうが良いとかありますからね」。
今回の”色と柄の合わせ方”というテーマで服部氏が作ったビジュアル。それらのコーディネートで清水氏が特に好きだというのはP040のものだという。
清水「フリースに青いテーラリングを合わせているのがいいですね」。
服部「青と黒で作りたいっていうのがスタートだったんですよ。日本のスタイリングって寒色がほとんどないような気がしていて、暖色に寄りがちなのかなって。僕が今日履いているニードルズのパンツを見た時に欲しくなった理由もそうなんですけど、青という色はよく存在しているのに、着るっていうことに関して言えば、敬遠されがちだと思ったんですよね。だからこそ青という色でやりたいと思ったんですよ。まず最初にこのフリースを見つけて、まとめるには中にテーラードを入れてしめよう。そういう発想ですね。そして柄を拾うためにチェックのシャツを中に入れさせて頂きました。細かいんですけど、この四角いネックレスでも柄を拾っていますね」。
清水「服部君はそういった細かさも魅力ですよね。分かりづらいかっこよさだったりもするんだけど、そういった所はすごく大事な気がします」。
服部「細かいディテールでコーディネートを調節するという点に関しては、普段から気にしています。このビジュアル(P040)も革靴で調節しているんですよ」。
清水「これは革靴じゃないと成立しないですもんね」。
服部「そうですね。革靴でしめて全体的なまとまりが出てきているんですよ」。
今回対談が行われたのは都内某所にあるネペンテスのプレスショールームである。そこで今季のニードルズのアイテムが並ぶ中、服部氏が色と柄というテーマで選ぶならこのアイテムというものを教えてくれた。
服部「僕はこのアイテムが気になりますね。こういった柄なんですけどあえて裏地は切りっぱなし。高級なものを素材感でカジュアルダウンさせているところがいいですよね」。
清水「インドの柄がモチーフになっていて、それをアレンジして作ったんですよ。高級なイメージの物は、そういう風に見えないほうが面白いですよね」。
服部「高級なアイテムが素材も高級だと完成されすぎちゃう気がするんですよ」。
清水「逆をやることもあるんですけど、フリースのアイテムに本物のシープスキンを使っちゃうとか。そういった既成の物にとらわれない自由な発想は大切にしています。そうでないと新しいファッションは出てこないですからね。新しいファッションが出てくると興味が湧くんですよ。なんでかっこいいのか分からない時も当然あるんですが、そういう時は実際に触れて考えるということをしていますね。例えば、ヒップホップのカルチャーとファッションが出てきた当時、みんな大きなシルエットに腰履きをしていたんですけど、正直かっこよさが初めは分からなかったんですよ。それでも実際にヒップホップを聴いてみたり、買い付けでアメリカに行った際にそういった人々を生で見たんですよね。その時に、なんかかっこいいなって思えたんです」。
服部「本物に触れるっていうのは大切ですよね。そうすることで自分で発見していく、ファッションにおいてはとくに重要なことだと思います」。
清水「昔からそういったことを考えてきた気がしますね。自分の体型にあったものはなんだろうとか、何かルールっていうのが存在していても、自分で発見することが何よりも大切ですね」。
一見すると普通のフリースのように見えるが、素材をシープスキンで作るというこだわりぶり。本来の物とは逆説的な作り方をすることで他にはない自由な発想のアイテムに仕上がる。
インドの柄をアレンジしたニードルズらしさ溢れるセットアップ。裏地が切りっぱなしになっており、細かいディテールに関してもこだわりが感じられるアイテム。
普段避けがちなブルーカラーを全面に出したコーディネート。チェックにチェックを合わせるという難易度の高い合わせ方を、テーラードジャケットや革靴を持ってくることでテンションを落ち着かせ、全体的なまとまりを実現。また、ネックレスの四角いテクスチャーでチェックを拾い、トレンドのトラックパンツでストリート感を演出した。
シックなパープルカラーと男らしいカモ柄を合わせ、大人なストリートスタイルを演出。カモとアーガイルを合わせ異なるパターンを 色の統一感によりモダンに統一させたコーディネートだ。あえてチェッカーのヴァンズをチョイスし、抜け感をプラス。既存のミリタリースタイルとは一線を画した、 新しいスタイリングを参考にしてほしい。
強烈なインパクトのプリントが施されたパンツには柄物ではなくシンプルなものを選びがちだが、あえてチェックを合わせたコーディネート。同じチェックでも 色のバランス感でトーンを落とし全体に落ち着きをもたらしている。また、ナイキの白いスニーカーがアクセントになり、COOLな大人のストリートスタイルを完成させている。
鮮やかなイエローのセットアップをモダンなコートでトーンダウンさせ、クリエイティブミュージシャンライクな印象に仕上げる。トレンドのハンチングや最新のBluetoothヘッドフォンを 上手にプラスし今っぽさも取り入れたコーディネート。グレンチェックにストライプを合わせ、柄においても遊び心を忘れないスタイリングだ。
Styling : Masataka Hattori Photo : Yoko Tagawa, Yuko Saito (horizont) Special Thanks : GRIND