世田谷で生まれ育ち、サボテンを始めて見たのは中学1年か2年の頃です。日本橋三越の園芸部というのが、刃物屋の木屋さんが今ある辺りの地べたにあったんです。敷地は土で冬は藁を敷いていました。そこに店として園芸部があって、山野草や薔薇やサボテンや多肉植物など色々な植物が置いてありました。サボテンや多肉植物を見たのはそれが最初です。新宿三越の脇にも三越の園芸部があり、そういう所でだんだんと買って育てるようになりました。

 

ハオルチアの十二の巻、リトープス、サボテン河内丸、銀毛丸、青王丸、そういったものを最初に買いました。その頃だいたい30円から50円、80円くらいでしたね。その頃の30円は、だいたいラーメン一杯の値段。今だと800円くらいの感覚です。中学1年の身には高くてなかなか買えないので、何とか親に頼んで買ってもらっていました。

 

その頃、そういったデパートの園芸部に出入りしていた中学生は、あまりいなかったですね。今の方がそういう中学生は少し多いと感じます。昔はサボテンや多肉植物など、爺むさいと言われたものです(笑)。中学高校と青山学院に通ったので、近くに第一園芸もありました。今の子供の城の辺りに温室を持っていて、サボテンなども売っていました。お金が無いもんだから、鉢要らないからまけてくれと頼んで、鉢無しで10円引いてもらったり。学校の園芸クラブにも入ってみましたが、温室も無いし、扱っているのが畑のもので興味が持てず、すぐに辞めてしまいました。なので、もっぱら自分で店を回ったりして楽しんでいましたね。
過去にサボテンブームというものが何回かあって、私より10歳くらい下の今の団塊世代、64〜65歳くらいの人が、一番サボテンに狂った方だと思います。 その人達も中学生くらいで夢中になったはずです。そう言う人達が今も業界に残っていて、それぞれ活発に動いています。大量に栽培して業者に販売したり、 仕事になってしまっている人達もたくさんいます。

 

僕自身も学生の頃はもちろん、会社入ってからもずっと多肉植物を追いかけていました。東京の自宅にビニールハウスも作りました。当時はビニール自体もあまり普及してなく高価で、 資材集めも大変でした。温室大工さんというのがいて、頼んで木製のハウスを作りましたが、ヒーターもなくて加温もできないから苦労しました。

 

その頃になると、あちこちにあった卸業者さんにも行くようになりました。そういうところで見たのが輸入品です。輸入品は欲しくてもなかなか手に入りませんでした。欲しいと言うと「10人待ってるから売れない」とか言われて、頭にきてしまいました。ですが、そういった業者も自分では輸入できないのです。調べてみると、どの業者も貿易商に輸入してもらっていたのが分かりました。

 

特に当時は語学や為替の問題があり、海外とのやりとりの経験が無い業者の人にとっては、輸入というだけでハードルが非常に高かったのです。ですから元々海外から楽器の輸入販売をしていた植物好きの社長が、サボテンや多肉植物も輸入して、そこから業者も買うといったようなケースが多かったです。

 

そうなると輸入品はどうしても少なく、その割に高度成長で金を出す人はたくさんいたので、なおさら業者は簡単に売ってくれません。 当時は旦那衆と呼ばれる裕福な人達や、医者とかお坊さんとかが愛好家に多くて、彼らはお金に糸目をつけません。

 

そんな中、自分で外国の雑誌や資料を色々集めて、ついに輸入元を突き止めました。当時、1ドルが360円。銀行も個人には一定額しかドルを売ってくれないので、 お金も自由になりません。身分証明書や住民票なども必要で、中々スムーズにものごとが進みません。それでも何とか輸入元に手紙を出してやりとりをして、 南アフリカとオランダから輸入する事に成功しました。それが50年程前、22〜23歳の頃です。そこからだんだんとメキシコなど違う国にも広げていきました。
マダガスカル南部のバオバブ道り、同島では一番有名な観光地。バオバブは
有用植物として大事にされている。
村人は農業を営む。道端に露店数件。バオバブの実を売っている。
最近は若くして倒れるバオバブが増えている。田んぼが迫ってきて土壌が
加湿されるため。20年ほど前に、神のバオバブという2000年生の巨木が倒れた。
マダガスカルの固有種、ワオキツネザル。
カリフォルニア南部の平原にて。
カリフォルニア南部の太平洋湾岸そばで、ダドレアを撮影。
カリフォルニア南部で大きなオコチョロと。
この植物を原住民は短く切り、垣根に使う。自然に発根して綺麗な生垣になる。
カリフォルニア南部で、珍しいフェロカクタスのせっか株を発見。
メキシコ・セドロス島の小さな飛行場に着いた。
バハ カリフォルニアから1時間20分かかる。
飛行場からは、北へこんな小さなボートで1時間半かけて25キロ北上。
ガイド兼船長。波をかぶりながらの移動。道が無いからである。
港もない砂利の上に上陸。6時間かけて山頂へ。
山頂で目的のダドレア・パキフィツムを見た。コロニーは数平米。世界でここだけ。サボテンは金冠竜。ここだけの固有種。島全体に無数に有る。
ダドレアは数拾株のみ。
ダドレアの上に写るアガベは無数にあり、下山中に赤い刺の素晴らしい個体を
見つけたが、採集はしなかった。
象の木も、この島では強風で綺麗な盆栽に。
国際多肉植物協会を立ち上げたのは今から13年前です。今でも業者さんに提供する充分な量の多肉植物を、協会として輸入しています。僕らはそういう意味では多肉植物輸入のパイオニアです。しかしながら、輸入する植物も初めての物が多く、栽培法も手探りのため、最初は随分ロスしました。

 

そういった過去の失敗談はいくらでもあります。アロエ・ピランシーを夏に輸入して、小さなトラック一台分くらいが全て腐ってしまったともありました。今の数百万円相当の損失です。そういう幾つもの苦い経験を肥やしに、少しずつ栽培法を確立して何とかやってきたのです。

 

協会の活動としては、植物の輸入などの他に、会報の発行、見学会、海外ツアーなどを企画して実施しています。季節ごとに開催される販売会「ビッグバザール」や、神代植物園や夢の島植物園での即売会なども人気です。

 

色々な協会があって良い意味で切磋琢磨してきましたが、専門性の高い多肉植物の会は僕ら以外にはありませんでした。昔は皆、サボテンの会だったのです。昔というかつい最近まで、サボテン業者向けの競りなどで多肉植物がでると、「葉っぱ」とか言われて馬鹿にされたものなのです(笑)。

 

サボテンを他の多肉植物と分けて呼ぶのは世界的なものです。なぜならあまりにも種類が多いから。僕は多肉植物専門で、サボテンは痛いから扱わなくなってしまいました(笑)。痛いからというのは半分冗談ですが、サボテンはきちんとした設備が無いと上手く育たない、温度と湿度をしっかりかけないと良い物が作れない、という事も理由の一つです。

 

うちの会員で一番有名な方は、アーティストの村上隆さんかもしれません。多肉植物というよりサボテンがお好きですね。最近忙しいせいか、例会ではお見かけしませんが。寄付を頂いたり、協会を応援して頂いて助かっています。
【ハオルシアの交配種】
オブツーサとベヌスタの交配で
特に透明度が高く美しい。
【ハエマンサス・パウクリフォリウス】
ハエマンサス・パウクリフォリウスの
非常に珍しい班。世界でもこれ一本。
【アルブカ属 ナマクエンシス】
直径1cmほどの小球根
ばね状の葉が面白い。
【アガベ】
チタノータの班入りで
組織培養で作られたもの。
【アルブカSP.】
乾燥、強光線下ではよく葉が巻く。
小球根。
【ゲチリス属ラドラ】
黄金色の荒いけばが人気の品種。
【フォーカリア属の交配】
和名大厳波(だいげんぱ)。
本属一の大型の葉と花が魅力。
【クラッスラ・ウンべラ】
(通称ワインカップ)と呼ばれる人気種。
小型球根冬型種。
【オプンチア・スルフレア】
白くよじれる刺は珍しい。
【ゲチリスの一種】
小型球根で珍しい種。
多肉植物の魅力は、何と言っても造形的な美しさ。そして、とんでもないときにボディとかけ離れた普通の綺麗な花が咲くという面白さ。水をあまりやらないでいいから、旅行にいけるのも良い点です。

 

実際のところは、多肉植物も世界中の色んな地域に自生していて、それこそ海岸のような低地から3000メーター級の山まで、様々な環境で生きています。それを一つの場所で栽培するのは、厳密に言えばそんな簡単なものじゃありません。その種類の性質を覚えて面倒を見る必要があります。ただ、「水をやらないでも枯れにくい」という事は言えるので、他の植物に比べて放っておいても旅行に行きやすく、旅行好きの僕にとっては一番のメリットです(笑)。

 

旅行に行くときは植物絡みのことが多いですが、植物好きな人は普通に旅をしていても得だと思います。道路を歩いていても、汽車に乗っていても、色々な植物を見てあれこれ考える事ができます。世界中どこに行ったって面白いです。植物に興味が無かったら、道路を歩いてたって店でも無いとつまらないですからね(笑)。その上、僕は鉄道も好きで、ヨーロッパでは汽車も楽しめています。

 

植物を通じて様々な世界の人と触れ合うことができました。お年寄りから小学生まで、年齢や職業関係無く、幅広い層と色々な世界が繋がっていくのが何よりの楽しみです。
多肉植物の愛好者は非常に増えています。先日開催した東京五反田での販売会「ビッグバザール」では、およそ1000人くらいの来場者がありました。5年程前は300〜400人といったところでしたが、今回は開場前から100人くらい並んでいて、大きく盛り上がりました。若年層、特に若い女性のファンが増えているのを感じます。

 

多肉植物で今人気があるのは、ハオルチア、メセン、エケベリアなどの種類です。最近は特に小型の物の人気が出てきました。全国の色々なクラブが開催する競りなどを見ていても、小さくて綺麗な物の方が人気があります。反面、大きくなりすぎると比較的割安になっているようです。これは、愛好者の居住スペースの問題もありそうです。特に東京や大阪などの都市はマンション住まいの方も多いので、置き場所も限られていて、住宅事情からの変化と言えるかもしれません。

 

その点でも、観葉植物に比べて多肉植物には小型の種類が豊富なので、より都会生活にマッチしやすいと思います。これからさらに人気が出てくるのではないでしょうか。植物のある人生はとても面白いものです。これからも協会を通じて多肉植物の魅力を伝え、ファンの方々との触れ合いを楽しんで行きたいと思います。
「多肉植物」の普及に大きな役割を果たしたのが、傑作として名高い「多肉植物写真集」。1998年に設立された「国際多肉植物協会」によって制作され、今も多肉植物のバイブル書として知られている書籍。
多肉植物写真集(第1巻) 5,000円 
多肉植物写真集(第2巻) 6,000円 
NEPENTHES TOKYO, NEPENTHES OSAKAにて販売中
第2巻から、荒野の宝石リトープスを紹介する美しいページ。このページをきっかけにリトープスの魅力に気付いた読者も多い。

小林浩  HIROSHI KOBAYASHI

国際多肉植物協会代表。1937年生まれ東京都出身。60年以上にわたって多肉植物を栽培。過去にNHK趣味の園芸での解説の他、「ポケット図鑑 サボテン.サボテン・多肉植物」(成美堂出版)など著書多数。 国際多肉植物協会では、長いキャリアの中で培われた広いネットワークによって、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアなど、37の拠点から、多肉植物の普及研究のためのニュースやイベントなどをファンに提供している。