
東京から戻ってすぐにまた、今度はLAに出張でした。久々のカルフォルニアはやっぱり気持ちよくて、仕事ももちろんですが、フリーマーケットとか見て歩き、そこで何年も連絡を取っていなかった古い友人たちと再会できたりと、なかなか良い感じだったと思います。最終日に昔から世話になってる友人の仕事場に立ち寄り、そこで最近できたという日本食レストランを勧められ、スタッフと一緒に出かけていきました。ちょっと日本でもなかなか食べられないくらい美味しいランチでひとしきり満足していたときに、デザートメニューを案内され、あんまり普段はこういうのは食べないのだけど、そのメニューには、「昔プリン」 と書いてあるのを見て、豹変。そしてそのプリンは、本当に昔子供の頃に食べていたプリンのままでとても美味しかった。食べたとたんに、40年以上も昔に、母親が手作りでビール用のグラスか何かに作りおきして冷蔵庫に置いてあった事を思い出しました。何となく久々にそのことを思い出し、ちょっとほんわかした気分でした。

その時に思ったのは、食べ物の力。食べ物で、その味で、人々の記憶まで呼び起こしてしまう力は凄いなあと。単純にそう思いました。自分ではめったに調理とかしないし、あんまり意識したことはなかったのですが、作り手は例えば、ミュージシャンやアーティストたちが作品をつくるのと同じように、いろいろな思いを込めて作っているのだと思います。そして、それは直接お客さんの元に届くものだという意味では、僕らが洋服を作るのとわりと近いのかもしれないと。
僕は洋服屋のお店からのスタートなので、レストラン自体、非常に洋服のお店に近いなあといつも思っていました。雰囲気作りというか、内装や、デコレーション、そしてサービス。全てがその店の個性を打ち出すように工夫してある事がとてもよく分かる。こういうのを含めてかなり共通点はあるのだなと再認識しました。
僕らの作る洋服も、いつかどこかで、誰かに何かを触発できることができたらそれはとても嬉しい事だろうなと思います。今までは、生まれ変わったら次は何になりたいかという質問には即答でミュージシャンと答えていたのだけど、今後はシェフってのもアリかもしれない。ま、こうやってその時に受けた影響でころころ考えを変えるのは、昔からなんで気にしないで下さい。ホントは生まれ変わっても洋服屋なりたかったりするんで。

しかし、もしシェフになるとしたらどうなったりするのだろうか。きっと、庶民の味方な、定食屋のオヤジあたりがピッタリの気がする。最高の素材を使う高級レストランとは縁遠い、だけど全く違う価値観の美味しさを追求するような。それはもう扱っているものは違うけど、そのアプローチは今と変わらないんだろう。そんなくだらない事をやや真剣に考えてしまいました。
写真は、LA出張中に出かけた久々のローズボウルと、マンハッタンビーチです。カルフォルニアの波はやっぱり気持ちよかった。
ではまた次回
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。