
ここ10年ほど、このブランドを知っていたのだけど、このブランドのデザイナーがあのロバート・ストック氏だとは全く知らなかった。ブランドのレップをしてるショウルームのオーナーはもう15年来の知り合い。ショウルームの場所も今のうちの事務所と同じブロックで、しょっちゅうその辺で会う。会う度に、まあ、殆どフライフィッシングの話だけど、仕事の話もする。その中で一度もロバート・ストック氏がデザイナーだという話にはなったことがないと思う。きっとというか、絶対に原宿キャシディあたりでは扱ってるはず、Robert Grahamというのがそのブランド。名前は確かにロバート・ストックに近いけれど、そのブランド名からは全然思いもしなかった。
先週手元に届いたWWDに綴じ込みでRobert Grahamブランドの特集記事があり、そのカバーにストック氏が出ていたので驚いた。
デザイナー、ロバート・ストック氏は、今40代以上で70年代後半からアメリカ、NYのファッションに興味のあった人だったらきっと覚えてるはずだ。同時期に、これはまた別の機会に話したいデザイナー、ロバート・コムストック氏もいて、非常にややこしいけれど、僕の個人的なランキングでは断然このロバート・ストック氏が上位に入る。

彼は70年代、ブロンクスの名物メンズショップの店員からキャリアを始め、その頃にすでに若きラルフ・ローレンと出会っている。その後、自分自身のブランドをスタート。その伝説的なブランドは、Country Britchesという名で遠いアジアにいた僕らの耳にも聞こえてきた。そして、売り出し中のラルフ・ローレンに誘われて、ディフュージョンブランドの草分けとも言える、Chapsを作り出す。Chapsの成功のあとは、ポロから離れ、自身の名前をブランドに、80年代に大活躍した人だ。
僕はその頃、2ヶ月遅れで洋書店に入る船便のGQを見て、あるいはメンズクラブに毎号載っていた浜田容子さんのコラムで、彼らの活躍を見聞きしていたのだけど、当時のGQに出ていたストック氏は、その頃のデザイナーとしては珍しく、髭もじゃで、短パンを履き、サンダルだったりする風貌で、何かちょっと変わった感じがして、僕は惹き付けられた。非常にエキセントリックな人のようではあるらしい。どうも、モンタナのMA-1とか、アルマーニのTシャツ、ゴルティの縞シャツのようにトレードマークのようなスタイルに僕は弱いみたいで、この時代のNYのメンズデザイナーではダントツ、ストック氏が見た目には最高と思っていた。
そのストック氏は10年ほど前に、当時のメンズファッションがとてもつまらないという理由で、ロンドンのパートナーと共にこのRobert Grahamを始めたようだ。というか、何しろココ何年も彼がこのブランドのデザイナーということを知らなかったのだから、ほぼ何もしらないのだけど、そのWWDの記事によるとそうらしい。ロンドンのお店経営しているパートナーの名前がGrahamそれでRobert Grahamになったというわけだ。

2001年からスタートという事で、確かにそれくらいに多分、トレードショウ、The Collectiveあたりで最初に見たと思う。かなり派手目のプリント使いや、カフ裏や、エリ裏、プラケット裏までのコンボ使いとか、その柄の合わせが面白く、それでもどことなく正統派の雰囲気を持っていて、それは大胆な素材使いでもディテールがオーセンティックなものだったりするバランスなのかも知れない。
Robert Grahamのコンセプトは、The American Eclectic。それはずっと長い間アメリカンファッションに携わってきた彼ならではのコンセプトだと思う。トラッドなものから、ウェスタン、そして過去のNYファッションの全てから良いとこ
ろ取りしたデザインということだろう。今回のビジネス10年目の節目にかなりメジャーなインベスターを迎え、Robert Grahamはデニムや、スーツなど、今まで以上に広い分野に向けてエキスパンドして行くらしい。このいうやり方はもう典型的なアメリカンファッションのビジネスモデルで、僕らの方向性とはまったく違ってもう着いて行けないのだけどね。だけど、70年代から活躍してる彼が、今はもう当然70歳近い年齢で未だに現役なのが凄い。ラルフ・ローレンも、もちろんだけど、あの僕があこがれた70年代後半のデザイナーたちが皆、今もその業界で一線にいることに本当にびっくりする。中にはまあ、いなくなったような人もいるのだけど、未だにアレキサンダー・ジュリアンはトレードショウで見かけるし、イベントではジェフリー・バンクスも。はては、ロナルダス・シャマスクが最近カムバックを果たしてるほど。
近頃、来シーズンのサンプルに追われながら、このまま何年こういうことをしていくのかなとふと考えて、ちょっとネガティブな気分にもなったりしたのだけど、こうやって往年のデザイナーたちが、今も変わりなく頑張っているのをみると、何だか自分もやっていけるような気になるから不思議だ。
彼らにしてみれば、僕なんてのはガキも同じ。まだまだ勉強していきたいと思います。

ロバート・ストック氏の話で、他にも同時代のデザイナーたちをたくさん思い出しました。Garrick Andersonとか、British KhakiのRobert Lightonなど。そういえば、EG 2005年秋冬のルックブックを撮影した時、サンプルが間に合わずに結構手持ちの自前の洋服というかアクセサリーをスタイリングに急遽使ったことがある。もちろんそのネクタイはEGの商品ではないので、展示会にも並ばなかったし、単に僕の私物であったのだけど、そのルックブックを見て、取引先の中で唯一、そのネクタイはNYのデザイナー、Audrey Bucknerの商品だと見抜いた人がいました。それはまあ、当然といえば当然ですが、今のキャシディ・ホームグロウンの名店長、八木沢さんです。多分、70年代から80年代のNYファッションに関しては一番詳しい方の一人だと思います。興味のある人は、是非彼の店へ出向いて、さらに詳しい話を聞いてみてください。
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。