
最近考える事。
まず一つ目。
先日、このところ立て続けにオープンしたユニクロ旗艦点の一つ、34丁目のお店に行く機会がありました。非常に奇麗に陳列された商品、見慣れたユニクロらしいウィンドウ、これでもかというカラーバリエーション、圧倒的な在庫量。値段は確かに安い。その割にはモノは悪くない。さらにカッティング、フィットが以前の記憶にあるユニクロより何ランクも改良されているのが見てすぐわかる。そしてなにより、凄いお客さんの数。朝イチから評判のヒートテックの数々のアイテムを買い求める人たち。実は人からそのヒートテックが良いからと勧められたので来てみたのだけど、その商品を見つけたとたんに、考えてしまった。はたして僕はユニクロで買物しても良いのだろうか。
後日、いつもお世話になっている日本の洋服業界の大先輩と食事する機会があった。話の中で、そのユニクロでのいきさつを正直に話してみた。先輩曰く、全く問題ない。何も躊躇する必要は無し。消耗品と区別して、割り切る。と、きれいさっぱり言い切られた。なるほど、そういうものなのか。と思いつつも、何となく納得がいかず、いまだに考え続けている。

二つ目。
この前、サーフィン帰りに仲間と話していた時、先輩のK氏が最近購入したイヤホンの話になった。どうやら、ちゃんとしたスピーカー並みに3つのコーンが小さいイヤホンに内蔵されているらしく、音がめちゃくちゃ良いらしい。ヘッドフォン、イヤホンのたぐいでは、ソニーとか、よく聞くようになったノイズキャンセリングのボーズくらいしか頭になかったので、この時初めて聞いたShureというブランドにびっくりした。どうやら、本業は、マイクロフォンを作ってるメーカーのようだが、何しろここのイヤホンが素晴らしいらしく、何と値段が500ドル以上。聞いた時はとても信じられなかった。普通イヤホンっていやあ、結構良さそうなゴールドのやつでもそんな値段は絶対にしない。一体どんだけ違うんだろうかと、正直思う。
K氏は、ポルシェの話で説明してくれた。ポルシェに限らず、スポーツカーの技術というのは、時速200キロくらいまではある程度のコストで作れるけれど、そこから10キロ、20キロを安定させるためには、それまでの倍以上のコストをかけなければ作れないという内容だったと思う。つまり、必要十分のクオリティから、さらに上に向かうには、ほんの少しの向上のために多大なコストがかかるという事だ。そんなものを誰が必要とするか。こんなもんを聞いていたら、音を聞く以前に、がぜん欲しくなってしまった。会社に戻ったとたんに、ググって製品のスペックと値段をチェック。あれから1ヶ月くらい経つのだけど、未だに買うべきかどうか迷っているまま。K氏には、どうせ買うんだったら、早い方が良いとさらにプレッシャーをかけられている状態だ。

とりとめもなく書いてしまったけれど、本題は3つ目。
次のシーズンのサンプルに向かい始めるときは、いつも考え込む。それまで少なからず、今度はこういう風にやろうとか、これも試してみたいというのはあるのだけど、実際に始まると、その考えはどっかに行ってしまう。というか、能天気に考えていたアイデアというのは、よく考えてみると使えないものが多い。さて、僕らがEGを始めた頃は、僕らのようにアメリカのワークウェアや、トラッドベースの洋服をヴィンテージを絡めて何かを作ろうとしている人は一握りの人たちだったと思う。まさかこんなマニアックな世界が、これほど支持される時代がくるとは思いもしなかった。そして今や、1時間に一本しか無かったマイナーなバスが、満員状態。誰もがここにいる。ように感じてしまう。となると、じゃあ何か別のところに行こうと、軽く考える。これもあるし、こんな手もある、とシーズン前は考えられるのだけど、実際に始まるとそうはいかない。何しろ自分自身がこの世界が好きなのだから、他に行きようがない。そこで何を考えるか。
20年くらい前に初めて観た、シルクドソレイユを思い出す。
日本でもかなり有名だと思う彼らのパフォーマンスを見たときは、圧倒されてしまった。予想がつくくらいのパフォーマンスに、最大級の演出である、音楽やビジュアルが加わってるだけでも素晴らしいのだけど、ほとんどの場面で、さらにその上のパフォーマンスを見せつけられた。
これなんですね。
思っている以上のパフォーマンス。
自分の予想を遥かに越えるパフォーマンス。
最高のパフォーマンスのさらに上をいくパフォーマンス。

そこでK氏の話を思い出す。
ある程度の水準から、さらに上をめざすにはそれまで以上の労力が必要だということ。たとえ違いがどんなに些細であっても、それにかかる労力がどんなに甚大であっても、やっぱりそこを目指したい。どんなに多くの人が同じ方向を向いていたとしても、そこが自分の世界である限り、やっぱりそこでさらなる高みに挑戦していきたい。その基準はやっぱり自分でしかないのだから、どんなところへ行きつくのか自分でも今は全くわからない。わからないけれど楽しみでもある。
それが僕らのNext Levelになるはずだ。
ユニクロを買えるのは、もう少し先でも良いと思う。
写真はハワイに行ってたり、地元のNYのビーチだったりの写真を適当に。
それでは皆さん、メリークリスマスそして、良いお年を。
ではまた来年。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。