
去年のハロウィーンあたりからほぼノンストップで取り組んでいた2012年秋冬のラインが、今月初旬のFWK、ウィメンズの展示会を持ってなんとか無事終了しました。毎シーズンの事ですが、バタバタと次から次へとプロジェクト、イベントが続き、気がつくと正月を通り越してもう2月というのが当たり前になっています。今回はその終了と同時にハワイへ、4日間のバケーションを取らさせてもらいました。
毎日海に入る。ただそれだけなんですが、暖かいので、腰に優しく、そして波も優しく、申し分ないバケーションでした。一時期は、マラソンにはまってこの地に毎年通ったもんですが、まさか波乗りすることになるとは、全く想像してませんでしたね。ゆるーい波を待ちながら、海に浮かんで廻りの景色を見ながら、ああ今シーズンもやっとなんとか乗り越えたなあと実感が湧いてきました。

こんな事を毎シーズン、もう何年やってるんだろうとふと考えてみると、知らないうちにもの凄い時間が経っていることを思い出しました。今シーズンも、ピッティからスタートして、東京のウィメンズまで、いろんな事がありました。今、一番頭に残っているのは、ピッティで一人、そして東京のEG店で一人、僕に直接話しかけてくれた人がいました。
ピッティで会ったのは、もちろんイタリア人でしたが、仕事柄NYにもしょっちゅう来られるようで、うちのお店ではよく買物してるということでした。彼の話からEGの洋服を買い始めたのはかなり昔からということがわかり、その時の彼の格好もほぼ全身EGであったのですが、なんていうか非常にさりげなくて最初に見たときは僕もはっきりとはわからないくらいにうまくスタイリングされていました。そして彼の言った言葉の一つが僕の心にずっしりと響きました。

「EGの服のポケット一つのデザイン、ディテールが、自分の仕事であるグラフィックデザインのアイデアにいろいろな意味でインスピレーションをくれる」と。他にもいろいろと言われたのだけど、恥ずかしいのでこれ以上は書きません。だけど、もしこの世界に彼一人だけでも、本当に偶然に、たまたまでも、僕らの作る洋服から何か刺激を受けて自分の仕事や、目的にいくらかでもヘルプになったとしたら、、、、。こんなに幸せな事はないなと思いました。これだけでも僕らの仕事は救われるなあとつくづく考えました。
もう一人は、東京のお店で。
FWKの展示会は青山のお店のスペースを一部借りてここ何シーズンかは見てもらっています。もちろん通常通りお店の営業もしているので、展示会ではありますが、普段のお客さん、懇意にしてもらっているお客さんの何人かとも知り合う事ができた。その中の一人は僕とほぼ同年齢、そしてEGを知ってから、青山にお店ができてから、本当に楽しませてもらっていますと、しきりに感謝されてしまった。僕はただただ、ありがとうございますと言うだけで精一杯だったのだけど、実は本当に嬉しかった。この嬉しさはなんだろうなあ。

その昔にお店に立っていた頃も、買物してくれた洋服を着て来てくれて、とても調子が良いと喜んでもらったのが、本当に嬉しかった。誰かのために何かをして喜んでもらうのがこんなに嬉しくて、やりがいを感じるとは最初の頃は想像もできなかった。
そんな事を考えながらハワイの海に浮かんでいたら、真横をスタンドアップパドルがもの凄い勢いで抜けて行った。そうだ、ボケっと余韻に浸ってる場合ではない。もう次のシーズンが始まってるのだから。しっかり目を見張って、波を逃さないように頑張らないと。もっと、もっと地力、パドル力をつけないと。
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。